たき火
国木田独歩
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)崕《がけ》に
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)箱根|足柄《あしがら》の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)あぶずり[#「あぶずり」に傍点]の端
−−
北風を背になし、枯草白き砂山の崕《がけ》に腰かけ、足なげいだして、伊豆連山のかなたに沈む夕日の薄き光を見送りつ、沖《おき》より帰る父の舟《ふね》遅《おそ》しとまつ逗子《ずし》あたりの童《わらべ》の心、その淋《さび》しさ、うら悲しさは如何あるべき。
御最後川の岸辺に茂る葦《あし》の枯れて、吹く潮風に騒ぐ、その根かたには夜半《よわ》の満汐《みちしお》に人知れず結びし氷、朝の退潮《ひきしお》に破られて残り、ひねもす解けもえせず、夕闇に白き線を水《み》ぎわに引く。もし旅人、疲れし足をこのほとりに停《と》めしとき、何心《なにごころ》なく見廻わして、何らの感もなく行過ぎうべきか。見かえればかしこなるは哀れを今も、七百年の後にひく六代御前《ろくだいごぜん》の杜《もり》なり。木《こ》がらしその梢《こずえ》に鳴りつ。
次へ
全10ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国木田 独歩 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング