》たり、
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往年同須藤南翠、訪依田学海君※[#「さんずい+(壥−土へん−厂)」、第3水準1−87−25]上村荘、酒間、君賦一律見贈、今巳四年矣、昨雨窓無聊偶念及之、即和韻一律、録以供一笑之資云、
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村荘不見一塵侵、最好清談披素襟、游戯文章猶寓意、吟嘲花月豈無心、新声北部才情婉、往事南朝感慨深、我亦多年同臭味、待君載筆屡相臨、
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ナント異《おつ》に出来《でか》したでは厶《ござ》らぬか、此詩《このし》を懐中《くわいちう》したれば、門《もん》を叩《たゝ》いて驚《おどろ》かし申《まを》さんかとは思ひしが、夢中《むちう》感得《かんとく》の詩《し》なれば、何時《いつ》何処《どこ》にても、またやらかすと云《い》ふ訳《わけ》には行《ゆ》かず、コレハ/\よく作られたと賞揚《しやうやう》一|番《ばん》、その後《あと》で新詩《しんし》を一律《いちりつ》また贈《おく》られては、再《ふたゝ》び胸に山を築《きづ》く、こゝは大《おほき》に考《かんが》へもの、面《まのあた》り捧《さゝ》げずに遠く紙上《しじやう》で吹聴《ふいちやう》せば、先生|髯《ひげ》を握《にぎ》りながら、フムと感心のコナシありて、此子《このこ》なか/\話せるワエと、忽《たちま》ち詩箋《しせん》に龍蛇《りうだ》はしり、郵便箱《いうびんばこ》に金玉《きんぎよく》の響《ひゞき》ある事《こと》になるとも、我《われ》また其夜《そのよ》の思寝《おもひね》に和韻《わゐん》の一|詩《し》をすら/\と感得《かんとく》して、先生のみか世人《よのひと》を驚《おどろ》かすも安《やす》かるべしと、門外《もんぐわい》に躊躇《ちうちよ》してつひに入《い》らず、道《みち》引《ひき》かへて百|花園《くわゑん》へと赴《おもむ》きぬ、新《しん》梅屋敷《うめやしき》百|花園《くわゑん》は梅の盛《さか》りなり、御大祭日《ごたいさいび》なれば群集《ぐんしふ》も其筈《そのはず》の事《こと》ながら、是《これ》はまた格別《かくべつ》の賑《にぎ》はひ、郡司大尉《ぐんじたいゐ》の壮行《さうかう》をまのあたり見て、子や孫《まご》に語《かた》りて教草《をしへぐさ》にせんと、送別《さうべつ》の外《ほか》の遊人《いうじん》も多くして、帰《かへ》さは※[#「筑」の「凡」に代えて「おおざと」、第3水準1−89−61]《つゑ》を此《こゝ》に曳《ひ》きしも少《すくな》からで、また一倍《いちばい》の賑《にぎ》はひはありしならん、一|人《にん》志《こゝろざ》しを立《たて》て国家《こくか》の為《ため》に其身《そのみ》をいたせば、満都《まんと》の人《ひと》皆《み》な動かされて梅の花さへ余栄《よえい》を得《え》たり、人は世に響《ひゞ》き渡《わた》るほどの善事《よきこと》を為《な》したきものなり、人は世に効益《かうえき》を与《あた》ふる大人君子《たいじんくんし》に向《むか》ひては、直接の関係はなくとも、斯《か》く間接の感化《かんくわ》をうくるものなれば、尊敬の意をうしなふまじきものなりなど、花は見ずして俯向《うつむき》ながら庭を巡《めぐ》るに、斯《か》く花園《はなぞの》を開《ひら》きて、人の心を楽《たのし》ます園主《ゑんしゆ》の功徳《くどく》、わづかの茶代《ちやだい》に換《か》へ得《え》らるゝものならず、此園《このゑん》はそもいかにして誰《だれ》が開きしぞ。


     第三囘


此《こ》の梅屋敷《うめやしき》は文化九年の春より菊塢《きくう》が開きしなり、百|花園《くわゑん》菊塢の伝《でん》は清風廬主人《せいふうろしゆじん》、さきに国民之友《こくみんのとも》に委《くは》しく出《いだ》されたれば、誰人《たれびと》も知りたらんが、近頃《ちかごろ》一新聞《あるしんぶん》に菊塢《きくう》は無学《むがく》なりしゆゑ、詩仏《しぶつ》や鵬斎《ぼうさい》に詩文《しぶん》にてなぶり者《もの》にされたりといふ事《こと》見《み》えたるが、元《もと》より菊塢《きくう》、世才《せさい》には長《たけ》たれど学文《がくもん》はなし、詩仏《しぶつ》鵬斎《ぼうさい》蜀山《しよくさん》真顔《まがほ》千|蔭《かげ》春海《はるみ》等《ら》、当時《そのころ》の聞人《もんじん》の幇間半分《たいこはんぶん》なぶり者にせられしには相違《さうゐ》なし、併《しか》し諸名家《しよめいか》が菊塢《きくう》を無祝儀《むしゆうぎ》で取巻《とりまき》同様《どうやう》にする間《あひだ》に、菊塢《きくう》はまた諸名家《しよめいか》を無謝儀《むしやぎ》にて使役《しえき》せしなり、聞人《もんじん》といふものは何《いつ》の世にても我儘《わがまゝ》で高慢《かうまん》で銭《ぜに》も遣《つか》はぬくせに、大面《おほづら》で悪く依怙地《えこぢ》で、自分ばかりが博識《ものしり》が
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