るものなり、菊塢《きくう》は奥州《おうしう》よりボツト出て、堺町《さかひてう》の芝居茶屋《しばゐぢやや》和泉屋《いづみや》勘《かん》十|郎《らう》方《かた》の飯焚《めしたき》となり、気転《きてん》が利《き》くより店の若衆《わかいしゆ》となり、客先《きやくさき》の番附《ばんづけ》配《くば》りにも、狂言《きやうげん》のあらましを面白《おもしろ》さうに話して、だん/\取入《とりい》り、俳優《やくしや》表方《おもてかた》の気にも入り、見やう聞真似《きゝまね》に発句《ほつく》狂歌《きやうか》など口早《くちはや》く即興《そくきよう》にものするに、茶屋《ちやや》の若者《わかいもの》には珍《めづら》しい奴《やつ》と、五代目|白猿《はくゑん》に贔屓《ひいき》にされ、白猿《はくゑん》の余光《よくわう》で抱一《はういつ》不白《ふはく》などの許《もと》へも立入《たちい》るやうになり、香茶《かうちや》活花《いけばな》まで器用で間《ま》に合《あは》せ、遂《つひ》に此人《このひと》たちの引立《ひきたて》にて茶道具屋《ちやだうぐや》とまでなり、口前《くちまへ》一《ひと》つで諸家《しよけ》に可愛《かあい》がられ、四十年来の閲歴《えつれき》に聞人達《もんじんたち》の気風《きふう》を呑込《のみこみ》たれば、只《たゞ》で諸名家《しよめいか》の御休息所《ごきうそくじよ》を作り、其《そ》の御褒美《ごほうび》には梅《うめ》一|本《ぽん》づゝ植《うゑ》て下《くだ》されと、金《かね》と卑劣《ひれつ》に出《いで》ざる名案《めいあん》、梅《うめ》一|本《ぽん》の寄附主《きふぬし》が、和尚《おしよう》如何《どう》だナ抔《など》と扶持《ふち》でもして置《お》くやうに巾《はゞ》を利《き》かせて、茶の呑倒《のみたふ》しを、コレハ先生よくこそ御来臨《ごらいりん》、幸《さいは》ひ左《さ》る方《かた》より到来《たうらい》の銘酒《めいしゆ》、これも先生に口を切《きつ》て頂《いただ》くは、青州《せいしう》従事《じゆうじ》が好造化《かうざうくわ》などゝ聞《きゝ》かぢりと、態《わざ》と知らせて馬鹿《ばか》がらせて悦《よろこ》ばせれば、大面先生《おほづらせんせい》横平《よこひら》たく、其面《そのつら》を振《ふ》り廻《まは》し、菊塢《きくう》は可笑《をかし》い奴《やつ》だ、今度の会は彼処《あすこ》で催《もよほ》してやらうと有難《ありがた》くない
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