明治二十七八年頃と思ふ。『大日本教育會雜誌』に、先生の東洋史十囘講義の筆記が掲げられてあるが、簡にして要を得、流石に先生なればこそと思はるる點も尠くない。明治三十六年頃に出版された『那珂東洋史』は中學校の教科書を目的としてつくられたものだが、紙數多きに過ぐとかで餘り採用はされなんだが、勿論其の前後に群出した無責任な東洋史教科書の間に在つて異彩を放つて居る。吾輩は世の東洋史を學ばんとする人には、是非この書を一讀せんことを勸めるのである。其他先生の東洋史に關する論文は、大抵『史學雜誌』に載せられて居る。何れも皆金玉の文字であるが、煩を厭うて一々は紹介せぬ。
 この外、先生には『東洋歴史地圖』の著がある。是れは明治二十七八年の頃、先生が第一高等學校の教授であつた時に製圖されたもので、蒙古時代と隋唐時代(主として法顯玄奘の印度へ行つた時代の地理を明かにしたもの)と二枚だけ出來上つたが、印刷の困難やら、書舖の辭退やらで、中々出版といふ運びに至らなんだ。蒙古時代の方だけは、明治三十二年頃に出版されたが、隋唐時代の方は、終に出版されなんだ樣に記憶して居る。
 最近出版の『成吉思汗《ジンギスカン》實
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