此等の事實は、東洋史は勿論、世界史の上より觀ても、稀有の大事件といはねばならぬ。
 以上數へ來た五項のうち、どの一項をとつても、國史上空前の大事業で、又東洋史上、否或者は世界史上より觀ても、稀有の大事件である。然るに此等の大事業大事件が、明治一代、殊に最後の二十年の間に、成し遂げられたのであるから、世界を擧げて、明治時代に於ける日本の發展を神業とし、奇蹟とするのも、無理ならぬ次第である。

         七

 我が日本人は顯著なる二つの國民性をもつて居る。一つは皇室に對する忠義心の厚いこと、即ち忠君、今一つは國權擁護若くは擴張の念の強いこと、即ち愛國である。忠君・愛國の二精神は、わが建國以來の歴史を一貫して居る。愛國の方は對外硬の精神となつて表はれて居る場合が多い。名實共に獨立の體面を毀損せぬことが、立國第一の必要條件となつて居る。先づ支那に對しては既に申述べた如く、隋・唐と交通開始の當時から、對外硬といふ主義を發揮して居る。我が國と外國との間に往復すべき、國際文書に關する慣例を書いたものに、異國牒状事といふ文書がある。前田侯爵の所藏で、史學會から發行された『征戰偉蹟』の中に收め
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