、國魂の如き立派な利子まで添へて、その借債を返還した。唯一の未拂として殘つて居るのが、宗教だけである。我が國の佛教が、過去に於て支那から大なる借債を負ひながら、今日まで借金をその儘に、支拂はずに棄て置くのは、何としても不都合と申す外ない。是非日本より佛教を支那に逆輸入して、往時の負債を辨償せなければならぬ。日本の佛教を支那に傳播することは、單に消極的に、過去の返禮を果たすといふに止らず、積極的に兩國の親睦を圖り、世界の平和を進める爲にも必要と思ふ。日支兩國はいはゆる輔車唇齒の關係に在りながら、最近の如く兩國民の感情※[#「目+癸」、第4水準2−82−11]離し、意思干格すること多いのは、甚だ遺憾に堪へぬ。若し佛教といふ連鎖によつて、兩國民の融合を圖れば、幾分この禍根を緩和し得る筈である。
 成る程支那に於ける、日本の布教權が未だ確立して居らぬから、多少の不便ないでもない。されど之は早晩解決されようし、また解決せなければならぬ問題で、さほど懸念するに足らぬ。懸念すべきはむしろ日本僧侶の決心いかんに在る。日本の僧侶に、三億の支那國民を感化するだけの、勇氣と眞心とをもつて居るや否やが、第一の
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