れから篩を持つて行きます。其篩は他國へ行つて、水の惡い所では泥水を掬つて泥を取つて後の水を飮む爲に、即ち水漉の用に供する爲に、其篩を持つて行きます。それから鍵繩を持つて居ります。鍵繩は城へ登るとき必要でありますから持つて居る。それから團隊として天幕を持つて居ります。其外には皮の袋を持つて居る。此皮の袋といふのが種々な場合に必要があるのです。それから石を投げる器械。支那人は※[#「石+駮」、第3水準1−89−16]といふ字を用ゐますが日本の撥釣瓶《はねつるべ》みたやうな仕掛けで大きな石をそれで撥て、城の所へどんと石を投げる。今日で言ふ攻城砲の代りに石を投げる器械、即ち※[#「石+駮」、第3水準1−89−16]を持つて居る。それからもう一つは石油を投げる。石油の壺を投げる器械があります。今日で言つたら爆裂彈の代りです。石油を一杯詰めて城の中へ投げる。さうすると向ふへ行つてぽんと彈くです。それを持つて居りますし、それから石を入れる袋を持つて居ります。是れは城の隍《ほり》を埋める時に用ゐます。其外に廣い梯子を用意します。それだけは大抵持つて居ります。
愈※[#二の字点、1−2−22]戰爭を開始するときには大臣會議(蒙古人のいふクリルタイ Kuriltai)を開きます。それには蒙古の王族、大臣、それから各部屬の長などが皆集ります。夫れに依て今度は何處の國を征伐すべきか、其國を征伐するに付ては何時頃から出立して、どういふ手段を取るか又軍隊の分け方、何人程兵を繰出すとか、總大將は誰かといふ其他一切の事を、クリルタイで定めます。それが愈※[#二の字点、1−2−22]定りますと云ふと出陣する。それから討つ所が定まりますと、殆ど蒙古の習慣として先づ自分の討たんとする國へ使者を派出して降參を勸める。其方は斯く斯くの不都合があるから吾々が征伐しやうと思ふが、潔く降參をしろと勸告する。降參に潔くもない筈です(笑聲起る)。それが第二の順序であります。第三番目には愈※[#二の字点、1−2−22]降參をする、仰せの通り承知を致した、降參を潔く致すと云ふと、さうすると相當な金穀を納めさす。貴樣の所は人口是れ程あつて盛んな所であるから、それに應じて何萬圓出せとか、幾千の家畜を出せと云つて、必ず出すべきだけの財産を命ずる。若しも先方が勸誘に應ぜず、又は此方から命じた財産を納めぬと、始めて其處を討ちに行く。それからして愈※[#二の字点、1−2−22]先方と戰爭をする時分には、僞つて逃げて伏兵に陷らしめるのが蒙古人慣用の手段であります。一番に逃げる、先方が追駈けて來るのを伏兵で陷れる。敵が苦しき經驗を嘗めて後には蒙古人が逃げても追駈けるなといふことになりますると、蒙古人は成るたけ先方を怒らせ、さうして其城兵をおびき出す工夫をする。併しどうしても先方がこの計略に乘らずして、城に皆楯籠つて居るときには愈※[#二の字点、1−2−22]前に申した※[#「石+駮」、第3水準1−89−16]を使つて石を投るです。平地から投つても城の壁が高いから旨く往かぬ故に、大抵城と同じ高さの築山を拵へます。其上へ※[#「石+駮」、第3水準1−89−16]を置いて、さうして城の中へ石を投込む。百貫位の石を投《はふ》ります。頭の上から百貫位の石が落て來ると隨分困る(笑聲起る)。四人位掛らなければ動かせない石を投るです。此石を投るのは城中の兵士を損める目的よりも城の壁を破壞するのが目的であります。けれども石がさう何處にでもある譯ではありませぬから、石がなければ其地方の墓の石とか、挽臼とかいふ物を引張り出して來たりする。愈※[#二の字点、1−2−22]石がなければ木の丸太を水へ漬けて置いて泥などで重くして彈くです。かくして城の壁を破つてそれから前に言ひました石嚢へ砂や小石を入れて城の濠を埋めて、大抵城の濠が埋つた時分に※[#「石+駮」、第3水準1−89−16]に依つて城の壁が崩れた所へ突進するです。もしも猶ほ壁が破れなければ、前に言つた梯子を用ゐることもあるし、又は鍵繩で登ることもあります。それでも往かぬと前に言つた石油を器へ入れて火を點けて敵の中へ投込みます。それで敵を狼狽さして其間に乘じて突進するのであります。さて愈※[#二の字点、1−2−22]さういふことで敵の城を陷れたときは、先づ第一其城へ楯籠つた中から美術家と職工――大工とか左官――其美術家と職工だけは先づ救出します。蒙古人は美術家と職工を非常に大切に致しますから外のものは皆殺してもこれだけは助けます。それは助けて矢張り分捕品として皆に分けて遣る。貴樣の所には美術家が七人大工が五人といふ風に分けて遣る。天子の所有になるのは蒙古へやつて仕舞ひます。それから其次には身體の屈竟な戰爭にも使へるし總ての工事に使へるといふやうな若い奴を引張り出して
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