の方が長い。長いけれども殆ど區別が付かぬさうです。無論蒙古人の衣服も日本と同じで右で合はすです。突厥人は左ですが、蒙古人は日本人と同じやうに右です。女の髮の形は是れはなかなか面白いです。口で言ふと却つて分らぬ。繪で描いた方が能く分りませう。嫁に行つて仕舞うて頭髮の前半分剃る。後頭の髮のみを殘す。それを結びます。さうして其處へ以て行つて大きな、今日で言ふ朝鮮人の帽子に似たやうな物を冠ります(この時畫を描く)。斯ういふ風に鉢皿などを逆樣に戴いたと同じことです。頭の上へきちんと冠るやうになつて縁は出て居ります。これを蒙古人は Bocca と申します。それは木の皮で拵へる。其上へ美しい絹を張つて居る。それから其冠り物の頂邊からかう四角な長い物がずつと出て居る。この四角な長い物の側面には穴を明けてある。此處へいろいろな飾りを置きます。鳥の羽根位です。鳥の羽根でなくても何でも宜い。或は絹の布などをやる。それから一番上へ行つては細くなりますが、孔雀の羽根を飾り付けます。冠り物は此處から此處までで高さ二尺何寸、長いのは三尺位あります。この高い冠り物には無論|纓《ひも》が付けてあつて、それを顎下でしつかり括り付けます。蒙古の女は馬に乘ります。小さい時分から馬乘りの稽古をします。蒙古の婦人がこの  Bocca を冠りて馬に乘りて居る所を遠くから見ると恰も騎兵が馬に乘つて來ると同じことで、此女などが澤山寄つて一緒に列んで馬に乘つて來るのを見ると、騎兵が自分の方へ襲撃して來るかの如く見える。何故かといふと Bocca の頂の所が騎兵の槍のやうに見えますからして(笑聲起る)、其冠物の皿が兜のやうに見えますから、臆病なる外國人は蒙古の婦人を見ても逃出し兼ねぬのです。蒙古の騎兵が來たかと思うて。次に蒙古の女は、能く肥滿つて居ります。それから鼻が低いです。どうも日本人が西洋人を見ると、鼻が隆い、鳶のやうな鼻をして居るとか何とか言ひますが、先刻申した所のプラノ・カルピニとかルブルックといふ先生達は、西洋人ですから鼻の隆つたに違ひない。それで蒙古人を見ると鼻が低い。鼻が低いといふよりもまるで鼻がない。唯顏の眞中に穴が二つ開いて居ると書いてあります(笑聲起る)。鼻が低いのですから彼等が見ると殆ど鼻がないやうに見えるでせう。酷いことを書いてある。顏の眞中に穴が二つ開いてあると云ふ。女は西洋でも日本でも顏に化粧をしますが、蒙古の婦人は多く黒い物を顏へ塗る。其顏へ少し黒い物を塗るのではない、眞黒に塗りますから隨分怖いさうです。外へ出るときは顏へ黒い物を塗る。日本では白い物を塗りますが、蒙古人は黒い物を塗るのです。次が飮食の話。
 飮食の話 先づ飮物の方から申しますと、蒙古人は冬の間は米或は小麥などから拵へた所の飮料を飮みます。それは多く支那の方から輸入されます。時に依ると葡萄酒も多少飮む。それはペルシアから輸入される。けれどもそれは極めて少量で、彼らの一般に殊に夏の間に用ゆるのは馬の乳です。馬乳です。馬乳を其儘飮むのではなくして、馬の乳からして製した所のクーミー(Koumis)といふ酒を飮みます。是れは牝馬の乳を搾り取り、それを皮の袋へ澤山詰めて、その皮袋をしつかり括つて大きな棒で皮を敲くです。さうすると熱を起しますから其間に自然に醗酵が出來ます。其熱でハーメントする。それは餘程酸ぱいさうです。蒙古人は之を非常に好くのです。それが彼らの最も好む所の飮料であります。天子とか或は大將とかいふ人になると、此普通のクーミーをもう少し精製した、カラクーミー(Karakoumis)を使用します。是は餘程甘いさうです。善い所を取て年を經て十分精製したのがカラクーミー。是はなかなか普通の人には飮めないのである。身分のある人でなければ飮めぬ。蒙古人は此クーミー或はカラクーミーを非常に用ゐるですから、大抵身分のある人は牝馬を澤山養つて其乳を搾らす。例へて云へば拔都《バツ》の如きは自分の所有として三千の牝馬を飼つて居る。それから毎日乳を搾らせて自分の飮料にしてある。蒙古人の酒を飮むときには先づ一番先に家の中の神樣に捧げる。それから續いて家で酒を飮む前に一家の下男が其酒を持つて天幕の外へ出て、さうして東西南北へ以て三遍づつそれを撒きます。或は風の神にやるとか、或は是は何の神にやるとか云つていろいろ儀式があります。兔も角も南へ三度、東へ三度、北へ三度といふ風に撒きまして、それから後で家の者が飮むです。それから一家の主人が飮んで居る間は他の男の者は主人の前で手を拍いて踊りて興を助け、若しも一家の主人の女房が飮む時分には他の女供が其前に行つて踊ります。無論樂器を奏することもあります。
 それから一つ面白いことは蒙古人が客に酒を勸める時です。御客樣があつてクーミーでも飮ます時分には一人は酒を注いだ盃を
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