やりますからそれは非常な速力です。それから愈※[#二の字点、1−2−22]戰爭といふことになりますると、蒙古人は必ず冬を選ぶです。秋から冬春の初めまで掛けてが蒙古人の戰爭時期です。夏の間は決して戰爭しませぬ。夏の間は休戰の時期です、其理由はいろいろある。一體蒙古人は馬へ乘つて戰ひますから馬は夏の間草の茂つたときに十分休息をさせるです。馬の肥ゆるのは秋に限つて居ります。是れは蒙古に限つたことではなく、匈奴以來すべて北狄といふものが支那へ入つて來るのは秋に限りますから支那人は北狄の侵入を防ぐことを防秋と書く位です。秋の初めになりますると馬が肥えますから其時を利用するです。それが冬に戰爭をする理由の一つ。もう一つは蒙古人は暑氣を非常に厭ふ。それが第二の理由。それからもう一つは冬は五穀などの收穫を終つたときで何處の國でも一番百姓の富んで居る時であるから其の時に行くと一番掠奪品が多い。夏の頃に行くと丁度前年の收穫の盡きんとする時で十分の掠奪が出來ませぬから必ず冬を見掛けて行く。さうすると掠奪品が多いので利益の點から冬を撰ぶ。もう一つは冬だと云ふと一面に土地河水が氷結するから道路が惡くとも亦河があつても橋を架ける必要がない。蒙古人は水に對しては甚だ意氣地がない。それが一面の氷になると働ける。夏は水になりますから蒙古人は困るです。水は蒙古人は非常に困るです。だから冬だといふと橋などを態※[#二の字点、1−2−22]架けずとも自然の氷の橋が架りますから、運動には極めて宜い。それからもう一つは冬でありますと草木が皆枯れて展望が宜いです。蒙古人は何れ他國へ侵入するのですから草木が茂つて居ると思はぬ所からどんと襲はれる。冬だと草木が枯れて十分展望が出來ますから、さうすると知らぬ他國へ行つても伏兵に襲はれる氣遣ひはないです。それであるからさういふ點より冬を撰びます。
 さてその次には何んな軍隊の組織かといふと、蒙古の軍隊の組織は十人長、百人長、千人長、一萬人長といふ風にして十進法で十人に一組長を置き、百人に一組長を置く、千人に一つ、萬人に一つ。それから各兵の持つて居る武器は無論弓矢を第一とします。蒙古兵の戰場へ行く時は必ず一人毎に弓二張、矢は箙に三杯だけ持つて行く。其外には鑢を用ゐます。鑢は何にするかといふと鏃《やじり》などの損んだときにそれを研いだり、或は武器の損じたときにそれを研ぐ。そ
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