などといふ贅澤なことはしない。自分に切つて貰つた骨があれば、必ず其骨は腰に下げて居る皮の袋の中へ入れて置く。空腹になつた時分にはそれを出して舐つて又入れて置く。幾度も舐つて終に木を噛んで居ると同じになれば始めて捨てる。決して宴會へ行つて骨があつたからと云つて其骨を遺して歸るといふそんな贅澤なことはしない。それを大切に保存しておき暇のあるとき出して舐る。なかなか食物に對しては儉約なものです。それで其ヨーロッパあたりから蒙古へ行つた人々、例へば前に言つたプラノ・カルピニとかルブルックといふ人々は蒙古にとつてお客樣ですから、勿論蒙古の政府から食料を渡して呉れる。けれどもそれだけでは中々不足勝で中には腹を減らして泣いて居つた人があります。初め呉れた折りに一度分の食物だらうと思つて一遍に食つて仕舞つた所が後から三度分だと聞いて大いに困つたのです。蒙古人は食量が少いから他國人も少いと思つて居る。餘り食物の少量なのは衞生に害があるやうですけれども、是れは戰爭に當つて非常に蒙古人の利益になることがあります。追撃などの場合には數日間殆ど絶食の有樣で敵を追窮することが出來ます。酒嚢飯袋などいふ無藝大食の者より遙か優つて居ります。隨分話が長くなりますが一番後に戰爭の時にはどんなことをするかといふことのお話をしますが、是れは少し面白いです。
戰爭の話 蒙古人は平素は無論牧畜が職業です。いざ戰爭と云ふと其平素牧畜をやつて居つた蒙古人が皆徴發されて兵隊になる。兵隊には給料がありませぬ。何年やつても外債を起す必要はない。何故だと云ふと只で働かせるから。その代り戰爭に行きますと、それには分捕品を分けて遣る。戰爭に行つたら必ず分捕物をする。分捕りをする爲に戰爭をするのです。分捕品を分けるときには丁度此頃相撲などで大關が何程、關脇が何程と云うて割を取るやうにちやんと按分比例になつてあると同樣に、大將には何人分、普通の兵卒はどれだけと云うてちやんと分捕り物を分ける役人があります。其役人が銘々に分捕品を分けて遣ります。それで生活をして參ります。戰爭のときは給料を貰ふのが目的でなくして分捕品を分けるのが目的ですから、何年やりても少しも差支ない。さうして愈※[#二の字点、1−2−22]戰爭をするときには蒙古兵は大抵騎馬です。蒙古人は小さい時分から皆馬へ乘ることを稽古します。三歳位の時分から馬へ乘つて弓を射る
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