女給
細井和喜蔵

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)黒表《ブラックリスト》にのって

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)持病の慢性|膓加答児《ちょうかたる》で

[#]:入力者注 傍点の位置の指定
(例)おしんこ[#「おしんこ」に傍点]を
−−

 柴田登恵子――といって置く。彼女が社会運動の為め黒表《ブラックリスト》にのって就職口にも事欠くようになった処へ、かてて加えて持病の慢性|膓加答児《ちょうかたる》でべったり床に就いて了った良人《おっと》を、再び世の中へ出そうという殊勝な考えから、その日その日に収入の有る料理屋働きを思い立ったのは去る一月なかばのことである。二人がほんの雨露をしのぐに足るだけの三畳のバラック、そこは羽目板や屋根裏の隙間から容赦もなく荒風が入って、ただ一枚きりの煎餅蒲団ではどうにもこらえ切れぬ寒さを僅かなアンカの暖で辛うじて避けようとする良人の病床へ、恰も遺恨があって戦いを挑むかのようにじゃけんに衝きあたるのであった。その惨めな部屋の中で、まだ若い良人は土よりも蒼い顔をしてキリキリッと歯を咬みしめつつ間歇的に
次へ
全21ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
細井 和喜蔵 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング