り行かなかった。尤も、それには動物を伴れて行く方が都合のいい訳もあった。たとえば豆腐のおからを一銭買うようなとき、人が食べるためと言えばたったそれっぱかり可笑しいが、モルに遣るのだと言えは少しも嗤《わら》われないのだった。しかし乍らそんな功利的な考えからではなく、彼女は真実モルモットが可愛かった。
「あなた、今日ねえ、モルやは八百屋のおばちゃんに人蔘一本もらったわよ。」
或る日、彼女は例の如く動物を使いに伴れて行って帰ったとき言った。
「ふうん……そんなものでも儲け物するのかなあ。」
彼はこう答えて微笑んだ。モルモットは、五寸くらいな葉のついた西洋人蔘を咥えていた。
「あなた、よう、モルやは今日も儲け物したわ、バナナ一本もらったの。」
翌日、小さな動物はまたもや八百屋で貰い物をした。そして、その明る日も梨を一個もらって来た。と、彼女は何時しか此のこつを覚えてその八百屋でばかり青物を買うようになった。すると、モルモットはその度毎に必ず何か食べ物を貰って、彼女の胸でそれを食べ乍ら家へ戻った。
「わたし、前は何故あんなによく怒ったんだろう?」彼女は小さな動物をあやしながら、それを蹴ちら
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