女は淋しかったので暇さえあれは、モルモットを抱いて動物に話しかけた。
「モルちゃんや、父うちゃんはねえ、いまお弁当の車を曳っぱっているよ、ゴロゴロを曳いているの。モルやはその上に乗せて貰うか?」
 彼女が脣を持って行くと、モルモットはその可愛い口から極めて小さな舌を出して人間の脣を舐めた。
「モルちゃんいい仔だね……キッチュ覚えたの? かちこいかちこい。」
 二ひきのけものを交々抱いて頬ずりすると、モルモットはぴこぴこ鼻を動かして喜んだ。
「父うちゃんがねえ、母ちゃんとモルやを迎いに来るよ。それでは、父うちゃんが来るまでお行儀よくして茲の家で待つの。いいか? 判ったか?」彼女は、こういって宛《さなが》ら本統の子供ででもあるかの如く色んな事を言い聞かせた。
 モルモットは日毎に馴れて怜悧になった。餌を貰う時に、彼女が「モルやお頂戴」と言うと前足二本を宙にあげて小器用に立つようになった。時々自分の小舎である箱を鼠のように噛ったりするので、軽く頭を叩いて戒めてやると長いあいだ頭を上げないで怒っている。小さなものが一人前に怒ることを知っていて、ぐざりとふてた真似をした。けれども、彼女にとっては
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