、子供達はよろこび勇んで、學校の課業さへ忘れ勝ちである。
愈々ふけ[#「ふけ」に傍点]てこしき[#「こしき」に丸傍点]をあげると濛々たる湯氣と子供達の歡聲、熱い楮の束をとり出すと皆戰鬪意識で、端の皮をちよつとめくり、人さし指を皮と幹との間に突つこんで、前へ引くとくるりと剥ける。楮の幹の肌はなめらかで奇麗だ。熱いうちにむかぬと剥けにくくなるし、指は熱いし痛いしなので、人さし指には布を幾重にも卷いておく。
皮は勿論その家のものだが、剥いた殼だけは子供の所得でお正月のくる頃迄には日當りの檐下にかなり積まれる。
鳥追ひの晩には、その年の定まつた番の家へ豆腐一丁と餅とを運ぶ。當番の家ではそれで田樂をつくる。里芋のも。
土間の眞ん中に穴をほつて、楮殼を惜し氣なくどん/\焚く。その周圍の莚に圓陣をつくり頬を眞赤にする。字《あざ》全部の子供たちは聲をはりあげて、
[#ここから3字下げ]
今夜あどこの鳥追ひだ
鎌倉の鳥追ひだ
名はなんと追ひ申す
ゑのしし鹿のしし
追はれ申して わあほい
[#ここで字下げ終わり]
と合唱する。鎌倉時代の鳥追ひの遺風なのだ。さてその火であぶつて食ふ田樂が、いかにうまかつたかは想像以外だ。
※[#「丸の中にΣ」、意味読みとも不明、6−9]歸る頃、雪になつたりした。
しかしこの鳥追ひの珍らしい行事も、年と共に亡びつつある。
底本:「雪あかり」書物展望社
1934(昭和9)年6月27日上梓
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:林 幸雄
校正:松永正敏
2003年7月21日作成
青空文庫作成ファイル:
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