たら無い。

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はじめて生つた栗の毬
昨日は一人で來て見たが
昨日もやつぱり青い毬

風がゆすれば落ちるよと
ママは私をだましたが
風は立つても青い毬

私の五つでまいた栗
栗は今年で三年目
なぜなぜ今日の青い毬
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 梅は豊後梅。よく村の子供にねらはれる。三千坪程の中に六十五戸の家敷が構へてあるので、生り物の木を植ゑとく家はいくらもない。私の家には路を隔てゝ向ふかはに前屋敷があり、梅はそこにある。垣根はあるのだが、村の子供らには鐵條網だつてかなはない。青いうちからむぐりこんで取つてしまふ。帶廣の町に勤めてゐる兄は、大連の弟夫婦が子供らを連れて客に來た時、すつかり降參して「大連の馬賊」と呼んでゐた。私も年々村の馬賊に弱らされる。といふのは前いつた向屋敷には孟宗が植ゑてあつて、春になると筍が出る。其筍を出るそばから頭をむしつて取つてしまふのだ。何にするかといへば、竹の皮で梅ぼしをつゝんでちゆちゆ[#「ちゆちゆ」に傍点]とすゝるのである。すゝつてゐる内に皮がべにで染めたやうになる。子供らはそれが嬉しくて群をなして孟宗林に闖入するのだ。どんなにか
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