を二兩で買つたはいゝが、はけ口が無いのでひきとらずにゐると、邪魔氣だから早くひきとれと矢釜しくいひます。元値の二兩でいゝから買つてくれ』と龜さんから申込まれて買つた。わたし二間はあらう二人では擔ぎきれなかつた。
が龜さんにはひどい目にも逢ふ。「庭中の木を八圓で」買つたのはよいが、龜さんが植ゑてくれた、片ぱしから枯れて、殘つたのは、榧の木一本。花やかな木蓮もをしかつたが沈丁華の大株も惜しかつた。
石榴は鈴生に生るが、子供らはあまり欲しがらない。酸いは梅もおなじだが、どうしたわけか。
『おらいの柊は』と常さんがよくいふ。常さんが家の柊は自慢だけあつて、凡二三百年はたたう。枝は地上七八寸のところから出て、上は球に刈りこんである。二百五十圓なら賣るといふ。出入先で納屋を作るのに邪魔だから伐るといふのを四圓五十錢で買つて、途中橋が渡れず、遠まはりしたり何かして十圓程はかゝつてゐるといふ。私の庭にあれがあつたならと思ふ。人の木を數へるやうになつては私もおしまひだ。
十月一日。連日の曇が雨となる。百合子に『レーンコートを持つて、停車場まで姉ちやんを迎へに行けるか』と聞いてみる。行けるといふ。尤毎日學校へ通つてゐる道だ。『そりや偉い。糸子姉ちやんは雨具なしで下館から來るのだからね。妹が姉を迎へに行くつて、立派な事だ』とほめると、レーンコートを頭からすつぽり被つて、姉のを脇にかかへて、雨の中を出て行つた。あとから妻を見にやる。『もう半分道行きましたよ、せつせと、勇んで』
夜、電燈の下で三人の子と遊ぶ。こなひだのお祭りで猿の芝居を見たが、猿のお尻はどうして赤いのと、末の五つの兒にきかれた。
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東筑波の山火事は
西吹く風にあふられて
お山の上はめら/\と
紅い煙がひろがつた
草が燃えるか木が燃えるか
晝はぼやけて見えねども
日暮となれば一面の
火の山火の峰まつかつか
かはいや高い木の上に
栗鼠は姿を見せてたが
雉はけん/\子を置いて
涙ほろ/\飛び立つた
爪もはさみも花のよな
小蟹は澤にかくれたが
猿のお馬鹿さん逃げもせず
お尻ちくりとやけどした
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『それで赤いのよ』
『そう、お猿、やけどしたの』
『あゝ』
底本:「雪あかり」書物展望社
1934(昭和9)年6月27日上梓
入力:林 幸雄
校正:松永正敏
2003
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