磯に流したり
月の入方《いるさ》に漂ひて
潮と落ちし竺志舟
面影|光《て》りし姫君の
形見も浪も葬りて
思へばわれは璞《あらたま》の
石に碎けし片《かけら》なり
涙を花の振袖に
藏《つゝ》みて遠く嫁ぐとも
杯《さかづき》含《ふく》む唇《くちびる》の
褪《あ》せなん程《ほど》の紅《べに》は不知《いさ》
胸にうつらふ幻を
いかなる色につくろはむ
鴛鴦《をしどり》縫《ぬ》ひし蒸衾《むしぶすま》
なごやが下に帶《おび》解《と》くと
戰《をのゝ》く指を握《と》られなば
夢にや死なんうつゝなの
伽羅《きやら》立ち馨る閨の戸に
背向《そがひ》に臥して懶《しどけな》く
亂るゝ衣《きぬ》をおさへつゝ
泣くとも知らん涙かは
霞に迷ふ
雁が音の
鳴門の迫門《せと》に
聞ゆるは
藻汐の煙
なつかしき
撫養《むや》の浦曲に
渡るらん
内海《うちうみ》照らす
月代《つきしろ》の
光めぐれる
島なれば
巖が根まどふ
浪の音は
島の奧にも
聞えつゝ
樒の露に
しほたれて
影衰へし
新尼《にひあま》を
野守の鏡
いくそたび
淺き山べに
泣かすとか
紅もるゝ
うすぎぬに
おほひし乳も
傷つきぬ
忘れがた
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