みれし青貝《あをがひ》を
拾ひて憂《うさ》を遣らんとも
松浦《まつら》戀しくなりぬ時
あはれならまし花の妻

翼しをれし五位鷺《ごいさぎ》の
雨を怨みて帆柱に
鳴くは濱べの雌をや呼ぶ
かすめる山は笹島か

手箱に秘めし花ぐしを
忘るともなく君さゝで
あたらほつれし前髮よ
白き額はかくさゞれ

思へばつらき浮寢にも
花なる人にともなひて

行きて別るゝ
  涙無く
後《おく》れてぬらす
  衣《きぬ》無きに
空も水なる
  大海《わだつみ》に
わが漕《こ》ぐ舟を
  誰か遮《さへぎ》る

  浮寢の卷

羨まし
誰をみ空の流れ星
暮るれば出て
光知るらん

暮るれば出る星ならで
篷をおほへる浮舟の
千鳥鳴く夜を妹許と
知らじな親は船にして

尾花が袖に露しげき
朱雀《すじやく》の野べの秋は不知《いさ》
のれる星棧《うきゝ》は輕かれど
たやすく浪にかへらんや

龍頭《みよし》にかゝる九曜星《すまるぼし》
光は霧にまよひつゝ
櫓《ろ》の音《と》ぬすみて笹島の
澳《おく》に入り行く小舟ありき

あじさし翔《か》ける白濱《しらはま》に
沈める珠を探るとて
若き乳房も仇浪の
なぶるになれし海士《あま》の子よ

額《ひたひ》にかゝる前髮の
みだれそめしが戀ならば
京の紅《べに》とや唇に
さゝねど人を戀しけむ

秋雨そゝぐ※[#「舟+令」、第4水準2−85−68]《ふなまど》に
彈《ひ》くべき琴も持たねども
三重卷く帶の端《はし》長く
けぶれる髮の美しう
 *   *
   *   *
めぐるに早き春の夜の
月は東に歸りけり
八重の潮路のたゞ白く
秋は光の寒きかな

手繰《たぐ》りし綱に枕して
ひそかに衿《えり》をぬらすとも
春かへり來る中空に
夢のおもかげ殘るらん

終に別るゝ殘懷《なごり》なき
星合《ほしあひ》の空にはろ/″\と
あこがれ渡る釣人《つりびと》の
涙は頬《ほゝ》に流るれど

※[#「爿+可」、181−下−19]※[#「爿+戈」、第4水準2−12−83]《かし》振り立て纜《もや》ひせし
あまのはしぶね音づれて
燎火《かゞりび》白む曉の
鐘こそかすかに響きたれ

水より淡き
  月《しまぼし》の
影は仄《ほの》かに
  殘りたり
輪廓《さゝべり》燃ゆる
  紫の
八雲《やくも》棚引く
  和田の原

朝日《あさひ》を洗ふ
  浪の穗に
輝く光
  くづれては
空を貫《
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