合いをしなければならないのだ!
「進まんか! 敵前でなにをしているのだ!」
中隊長が軍刀をひっさげてやって来た。
七
遠足に疲れた生徒が、泉のほとりに群がって休息しているように、兵士が、全くだれてしまった態度で、雪の上に群がっていた。何か口論をしていた。
「おい、あっちへやれ。」
大隊長はイワン・ペトロウイチに云った。「あの人がたま[#「たま」に傍点]になっとる方だ。」
馬は、雪の上を追いまわされて疲れ、これ以上鞭をあてるのが、イワンには、自分の身を叩くように痛く感じられた。彼は兵卒をのせていればよかったと思った。兵卒は、戦闘が始ると悉《ことごと》く橇からおりて、雪の上を自分の脚で歩いているのだ。指揮者だけがいつまでも橇を棄てなかった。御用商人は、彼をだましたのだ。ロシア人を殺すために、彼等の橇を使っているのだ。橇がなかったらどうすることも出来やしないのに!
踏みかためられ、凍《い》てついた道から外れると、馬の細長い脚は深く雪の中へ没した。そして脚を抜く時に蹴る雪が、イワンの顔に散りかかって来た。そういう走りにくいところへ落ちこめば落ちこむほど、馬の疲労は増
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