ために、家の修繕も出来ないのだということを腹に持っていた。
「もう今日きりやめさせて了えやえい」と彼女は同じことを繰り返した。「うら[#「うら」に傍点]が始めからやらん云うのに、お前が何んにも考えなしにやりかけるせに、こんなことになるんじゃ。また、えいことにして一年せんど行くやこし云い出して……親の苦労はこっちから先も思いやせんとから!」
「うっかり途中でやめさしたら、どっちつかずの生れ半着《はんちゃく》で、これまで折角銭を入れたんが何んにもなるまい。」
「そんじゃ、お前一人で働いてやんなされ! うら[#「うら」に傍点]あもう五十すぎにもなって、夜も昼も働くんはご免じゃ。」
「お、うら[#「うら」に傍点]独りで夜なべするがな。われゃ、眠《ね》むたけれゃ寝イ。」為吉はどこまでも落ちついて忍耐強かった。朝早くから、晩におそくまで田畑で働き、夜は、欠かさず夜なべをした。一銭でも借金を少くしたかったのである。
おしかはぶつ/\云い乍《なが》らも、為吉が夜なべをつゞけていると、それを放っておいて寝るようなこともしなかった。
戸外には、谷間の嵐が団栗の落葉を吹き散らしていた。戸や壁の隙間《すき
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