ていた。こんなことになったのも、結局、為吉がはじめ息子を学校へやりたいような口吻をもらしたせいであるように、おしかは云い立てゝ夫をなじった。
「まあそんなに云うない。今にあれが銭を儲けるようになったら、借金を返えしてくれるし、うら等も楽が出来るわい。」為吉はそう云って縄を綯《な》いつゞけた。
「そんなことがあてになるもんか!」
「健やんが云よったが、今日び景気がえいせに高等商業を出たらえらい銭《ぜに》がとれるんじゃとい。」
彼等は、ランプの芯を下げて、灯を小さくやっとあたりが見分けられる位いにして仕事をした。それでも一升買ってきた石油はすぐなくなった。夜なべ最中に、よくランプがジジジジと音たて、やがて消えて行った。
「えゝいくそ! 消えやがった。」おしかはランプにまで腹立てゝいるようにそう云った。
「もう石油はないんか!」
「あるもんら! 貧乏したら石油まで早よ無うなる。」おしかはごつ/\云った。
「そんなか、カワラケを持って来い。」
「ヘイ、ヘイ。」おしかは神棚から土器《かわらけ》をおろして、種油を注ぎ燈心に火をともした。
両人はその灯を頼りに、またしばらく夜なべをつゞけた。
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