。が、その背後にどんな計画があったか、それは君の想像にまかせる。
 防備隊というのは兵隊じゃない普通の地方人だ。青年団や、中学生だ。
「何をしていた!」夜中の二時頃、俺が集合場に馳せつけると、志願兵上りの少尉が見つけてガミガミ云う。「みな、一時に集まって、任務についているんですぞ!」
「一体、どういう状勢なんですか?」俺は、ワクワクしていた。
「そんなこと、訊ねなくッてよろしい! 命令通りすればいいんだ!」
 俺のあとから、七十人位やって来た。みな、銃と剣と弾薬を持った。そこで防備は、どこだと思う? 古城子の露天掘りだ! 石炭を掘っている苦力の番をするのだ。
「なに! 苦力の番だって! 馬鹿にしてやがら!」
 とおれはバカバカしくなった。
「そんな文句は云わんでもよろしい。黙って命令通りすればいいんだ!」やはり少尉はニガニガしげに答えた。
 君が撫順に来たとき、大きな電気ショベルが、ザクザクと石炭をトロッコにすいこんでいただろう。そして、炭塵《たんじん》で真黒けになった日給三十銭の運搬華工や、ハッパをかける苦力がウヨウヨしていたね。その苦力の番だよ。夜があけると苦力は俺たちの銃剣[#「銃剣」に「×」の傍記]を見てビクビクしだした。
「なんだい! こんな苦力の番が何で必要があるんだい!」
 俺は吐き出した。
 少尉はしばらく俺を睨みつけていた。そしてとうとう彼は云った。
「じゃ、君は帰ってよろしい!」
「帰るべえ。何だい!」俺はそういって歩き出した――しかしこのために、俺は近々事務所を首になるかもしれない。



底本:「日本プロレタリア文学集・20 「戦旗」「ナップ」作家集(七)」新日本出版社
   1985(昭和60)年3月25日初版
   1989(平成元)年3月25日第4刷
底本の親本:「文学新聞」
   1931(昭和6)年11月10日号
※親本(初出)の伏せ字は、底本では編集部によって復元され、当該の箇所には×が傍記されている。
入力:林 幸雄
校正:山根生也
2002年2月19日公開
2006年4月3日修正
青空文庫作成ファイル:
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