到るところに発揮されて、当時の海戦と艦上生活の有様をヴィヴィットに伝え得るものがある。軍艦の水兵たちや、戦地に行った者たちが、内地からの郵便物を恐ろしく焦れ待つことは、多くの者の経験するところで、後年の文学にたび/\出てくるが、独歩は既に、そのことをこゝに書いている。また、支那の僻陬《へきすう》の地の農民たちは、日清戦争があったことも、清《しん》が明《みん》に取ってかわったことも知らずに、しかし、軍隊の略奪には恐ろしく警戒して生きている、──こういうことは、支那の奥地に這入った者のよく見受けるところであるが、これも独歩は、将校のちょっとした上陸から発見して、それを伝えている。この「愛弟通信」は、具体性に於て、際物的戦争小説の比ではない。
しかし、この時の独歩の体内に流れていた血は、明かに支配階級に属する年少気鋭の忠勇なる士官のそれと異らないものであった。だから彼は、陸兵が敵地にまんまと上陸し得たことを痛快々々! と叫び、「吾れ実に大日本帝国のために万歳を三呼せずんばあらず!」と云い得ている。だから彼は、威海衛の大攻撃を叙するにあたって熱を帯びた筆致を駆使し得ているのである。そして、彼
前へ
次へ
全26ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
黒島 伝治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング