でも、やはり遙かに上にある。彼等は地主的或はブルジョア的イデオロギーの持主ではあったが、しかし、決してブルジョア乃至は愛国主義の番犬ではなかった。トルストイは見習士官としてセバストポールの戦争に参加したが、ガルシンも露土戦争に参加した。アンドレエフは日露戦争に加っていた。そこでの戦争の体験が、彼等の文学を優秀なものとしている。そして彼等は、そのイデオロギーに制約されながらも、体験を遠慮なく好きなように書き得る自由を持っていた。
 わが明治以後、大正に到っては、既に芥川龍之介の「将軍」でさえ何行かを抹殺されている。その後のプロレタリア文学に到っては、一層多くの抹殺なくしては、戦争を描き得ない状態にある。そして、それは正しく、戦争を反映した文学の製作が非常に困難であることを物語るものであろう。



底本:「黒島傳治全集 第三巻」筑摩書房
   1970(昭和45)年8月30日第1刷発行
初出:「明治文学講座 第四巻」木星社
   1932(昭和7)年3月
入力:Nana ohbe
校正:林 幸雄
2009年6月17日作成
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