で怺《こら》えていた。今に、国立公園になるというんで、郷土的な名誉心をそそられたりした。
 便所のところで、剣が、ガチャガチャ鳴った。
「オイ、来いというのにどうして来ねえんだい!」三時間もすると、又、巡査がやって来た。
「ハア。」
「こんなところに、勝手に便所を建てたりして第一風景を損じて見ッともないじゃないか!」
「そうですか。」
「一寸、警察まで来て呉れ。」
 米吉は、警察で、百円の罰金を云い渡された。そして帰ってきた。
「百円の罰金がいるんなら、勝手に取ってくらッせえ!」彼はムカムカして署長に云ってやった。「便所がなくなッて、おいら、どこへ糞たれるんだ!」
「見ッともないじゃないか! もっと隅ッこの人目につかんところへ建てるとか、お屋敷からまる見えだし、景色を損じて仕様がない!」
「チッ! くそッ!」
 自分の住家の前に便所を建てていけないというに到っては、別荘も、別邸もあったもんじゃなかった。国立公園もヘチマもなかった。実際、百姓は、眼のさきに森林がありながら、そこの樹を伐ることさえ出来なくッて薪を買わなければならなかった。何故、あの林に這入って、勝手に、必要なものを伐っては
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