――と、反抗的な熱情が涌き上って来るのを止めることが出来なかった。それは彼ばかりではなかった、彼と同じ不服と反抗を抱いている兵卒は多かった。彼等は、ある時は、逃げて行くパルチザンを撃たずに銃先を空に向けた。またある時は、雪の上にへたばって「進め」に応じなかった。またある時は、癪に障る中尉に銃剣をさし向けた。しかし、そういう反抗も、その経験を繰返えすに従って、一部の兵卒の気まぐれなやり方では、あまりに効果が薄いことを克明に知るばかりだった。
三
寒暖計の水銀が収縮してきた。氷点以下七度、十一度、十五度、そして、ついに二十度以下にさがってしまった。
ソビエットを守るパルチザンの襲撃は鋭利になりだした。日本の兵士は、寒気のために動作の敏活を失った。むくむくした毛皮の外套を豪猪《いのしゝ》のようにまんまるくなるまで着こまなければならない。左右の手袋は分厚く重く、紐をつけた財布のように頸から吊るしていなければならない。銃は、その手袋の指の間から蝋をなすりつけたようにつるつる滑り落ちた。パルチザンはそこへつけこんできた。
兵士達は、始終過激派を追っかけ、家宅捜索をしたり、武器
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