も三寸もありそうなゴツイ[#「ゴツイ」に傍点]彼等も、自分自身の悪業のため、満洲がいにくゝなる。天津がいにくゝなる。青島がいにくゝなる。そしてここへやって来ていた。
工場には、悪党上りが集った場所によくある、留置場のような、一種特別な、ざっくばらんな空気がかもされていた。こゝでは自分の悪業を蔽いかくそうとする者は一人もなかった。強姦でも、強盗でも、窃盗でも、自分の経験を大ッぴらに喋りちらした。そこへ這入って来る人間は、自分にやった覚えのない罪悪をも、誇大に作り出して喋らないと、はばがきかない感じを受けた。いろ/\な前科と剛胆な犯罪の経験をよけいに持っている奴ほど、はばをきかし、人を恐れさし、えらばっていることが出来た。
小山は、工人の気に喰わぬ奴に対しては、燐や、塩酸加里、硫黄、松脂などが加熱されて釜の中でドロ/\にとけている頭薬を、柄杓《ひしゃく》ですくって、頭からピシャリとぶちかけた。支那人は、彼の手に握られた柄杓を見ると、物がひっくりかえるようなトンキョウな声を出して逃げ出すのだった。そのくせ、工人達が頭薬をこぼすと口ぎたなく呶鳴りちらした。
彼等は、幹太郎をのけると、みな
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