ように、屋内を、隅から隅へ突きあたり、ひっくりかえした。はね上がったり、すねを突いて、物置の奥へ手を突ッ込む拍子に、大褂児の裾から、フト軍服の※[#「ころもへん+庫」、第3水準1−91−85]子《クウズ》がまくれ出た。
「おや、兵隊だ!」
「兵隊がどうしたい?」
「兵隊だって食わずにゃ生きとれねんだぞ。督弁《トバン》は一文だってよこさねえし!」
そいつらは正体を見破られて引っ込むどころじゃなかった。「我的我的《オーデオーデ》! 爾的我的《ニーデオーデ》! (おれのもんはおれのもんだ! お前のもんはおれのもんだ!)」
工場では、内川が、北伐にともなう、共産系の宣伝と組織運動、動乱にまぎれての工人の逃亡に対する対策に腐心していた。
頭の下げっぷりが悪い、生意気な者には、容赦のないリンチが行われた。
工人は妻のある男も、夫のある女工も、門外に出ることを絶対に禁じられた。すべてが、二棟の寄宿舎に閉じこめられてしまった。
門鑑は、巡警によって守られていた。
巡警は、公司《コンス》の証明書を持たない者には、一切入門を拒絶した。
逃亡の防止策としては、給料が払われなかった。工人達は、三
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