やする青二才があるから、のさばりやがるんだ。(これは幹太郎へのあてつけだ。)貴様、共産党の手さきであろうが!――工場が占領出来るんなら、占領して見ろ!……こらッ! もう一度、あの晩のような口はばったいことを、ぬかして見ろ!」
 小山は近づいてくる兵士達が、自分のうしろ楯《だて》だと意識した。
 怒りにゆがんだ彼の顔が、兵士たちの方へは、一寸、にこりとほころびた。
 が、于《ユイ》に向っては、すぐもとの通りにひきゆがんだ。
 職場で、工人達は、水を打ったようにしんとなって、耳を澄まし、仕事をつゞけていた。器械の動く騒音だけはつづいていた。
 ある者は、軸列機を動かす手を休めて、そッと、社員に発見されないように、窓のかげから、小山が、于のもう一方の拇指《おやゆび》に針を突き刺すのを見つめていた。やはり、それを見ている、気の弱い少年工は、自分が刺されるような気がして、顔をそむけた。
「貴様ッ、まだ、ふてぶてしくかまえていやがるんか!――李、今度は、濡皮鞭《ぬれかわむち》だ、濡皮鞭を持って来い!」
 小山のかんかん声がひゞいた。
 ノホホンをきめこんで、作業をつゞけていた工人までが、今度は、は
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