なまけて、何もしゅくさらんとて、工場から飯を食わしゅてやっとるんだ。――嬶や、親が、かつえるなんて、あいつら、生大根でも、人参の尻ッポでもかじっとりゃいいんじゃないか! 乞食のような生活をしゅとるくせに、威張りやがって!」
 賃銀を渡せば工人は逃げる心配があった。そして、あとに、熟練工の代りはない。
 手下をなだめるためには、喋れるだけの言葉を喋りつくした把頭《バトウ》の李蘭圃《リランプ》は引きあげて来た。
「これゃ、どうしても駄目です。どうしたって手のつけようがありません。」と李は云った。「半分だけでも、払うてやっていたゞくんですな。そうでもしないと、収拾のしようがありません。奴等も、この頃は、時節柄現金でなけりゃ、何一つ買うことも出来ねえそうですから。」
「畜生! 貴様も、奴等と、ぐるになっとるんだろう。」
「小山さん、誤解せられちゃ困ります。」李はいそいで遮った。「誤解せられちゃ困ります!」
「しやがれ! しやがれ!」と、小山は呶鳴った。
「生意気なことをぬかしゅと承知がならんぞ! しやがれ!」
 彼は壁にかけられた拳銃を頼もしげにかえり見た。
 支配人は、どんなことになっても仕
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