んだ。支那の連中に大いにやって貰わんことにゃ、俺等の内地の仕事もやりにくいんだ!」
 その高取がいなくなった。
 柿本には、最後の言葉だけは、まだ、意味がはっきり分らなかった。
 幹部は、城内に頑張っている南軍よりも、土匪よりも、猿飛佐助のまく伝単や高取や、工人たちと一つになった兵士の赤化を一番に、気にやんでいた。それを一番怖がっていた。
 それは争われなかった。

     三二

 この日、また、死にもの狂いの猛烈な攻撃が試みられた。
 午後三時、柿本は、ゴミの中で城壁のかげから飛来した弾丸に肩をうちぬかれた。一群の負傷者にまじってトラックに揺られ病院に来た。
 負傷兵は、どの病室にも、いっぱいにあふれていた。担架にのせられ、歩ける者は歩いて、あとからどん/\這入り得るだけの密度で、病室につめこまれる。外科病棟は、びっしりとなっていた。内科病棟と伝染病棟の一部にも、負傷者は這入っていた。
 柿本が入れられたのは支那人を追い出した、支那人への施療《せりょう》病室だった。白ペンキが禿げた鉄寝台、汚点《しみ》だらけの藁蒲団、膿《うみ》くさい毛布。敷布や、蒲団蔽いはなかった。普通の病室よりは悪かった。
 煎《い》りつくようなのどの乾きと、傷が生命を奪って行く、それとの戦い、疼痛などで、病室は、檻のようなわめきで、相呼応していた。
 各部署の戦闘のはげしさは、負傷者の数と、思い切り無遠慮なその負傷ぶりによって完全に表現されていた。
「砲兵の榴散弾で、城門近くの歩兵がやられて居るんだ。照準が間違っているのにめちゃくちゃにうって居るからだ。味方の頭の上で味方の弾丸が炸裂しているんだからな。」
 負傷者を運んできた担架卒は、ベッドの脇で、にが/\しげに呟いた。
「南軍の遺棄した弾丸を使ってるちゅうじゃないか。」
「ふむ、そうかもしれねえ。そんなことをするから着弾が狂って、味方の砲兵が、味方の歩兵を殺すんだ。」
「チェッ! そんなこともあろうかい。もともとろくでもねえ戦争だ!」
 一ツのトラックの負傷者が、それぞれベッドに運ばれて、一時担架卒のがたがた出入する靴音が消えたかと思うと、まだ、軍医の傷の手あてが、みんなの三分の一にも行き渡らないうちに、次のトラックが病庭へ唸りこんできた。また、担架卒が、靴音をばたばたと、重い負傷者をかついで這入ってくる。
「□×が一等、やられる者が多
前へ 次へ
全123ページ中119ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
黒島 伝治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング