った。
 それほどやかましいのは、それほど、武器が大切であることを意味していた。
 殊に小軍閥や、土匪は、武器なら人を殺しても、それを奪取した。武器ならいくら金を出しても、それを買い取った。そこで、土匪のうわ前をはねるのさえ、実は容易な業だった。
 だから、売込の妨害をされないためだけにでも、五百やそこらは放り出すべきだ。
 それを、下積みの膳立ては、すべて、彼――山崎がちゃんとこしらえてやったんじゃないか。それを内川はむくいようとしなかった。
 山崎は、あんまり気長く放って置くと、自分の努力が時効にかゝっちまう、と気をもんだ。
 しかし内川が、彼を蹴るなら蹴るで、彼は又、彼として、考えがあった。若し万が一、今度百や二百やの眼くされ金で胡麻化そうとするんなら、その時は、その時で、今後の商売を、全く、上ったりにして呉れるから。
 山崎は、内川等がどんなことをやっているか、それを知っていた。そして、彼は、それをあげ[#「あげ」に傍点]てやろうと思えばあげ[#「あげ」に傍点]てやれるのだった。
 彼は、自国人であるために、それを庇護していた。
 それは、ある秋のことである。市街から離れた田舎道を、なお、山奥へ、樹々が枯色をした深い淋しい林へ、耳の長い驢馬《ろば》に引かれた長い葬式の列が通っていた。
 棺車は六頭の驢馬に引かれていた。驢馬は小さい胴体や、短かい四本の脚に似合わず、大きい頭を、苦るしげに振り振り、六頭が、六頭とも汗だくだくとなっていた。そのちぢれたような汚れた毛からは、湯気が立った。
 棺は死人を弔《とむら》うにふさわしく、支那式に、蛇頭や、黒い布でしめやかに飾られていた。喪主らしい男は、一人だけ粗麻の喪帽をかむり、泣き女はわんわんほえながらあとにつゞいていた。
 町で死んだ者が、郷里の田舎へつれかえられているのだろう。
 だが、一人の死屍に、そして、山の方へだが、まだ、山へはさしかからず平地をつゞいて行くのに、どうして六頭もの馬が、湯気が立つほど汗をかいているのだろう。
 どうして、一人の死屍がそんなに重いのか?
 巡警は、不思議に思った。
 暫らくは安全だった。普通葬列は、馬に引かれず、人の肩に棒で舁《かつ》がれて行くべきだ。それも巡警の疑念を深くした。が、二人の巡警は、棺車を守る七八人の屈強な男の敵じゃなかった。そして葬列は林へ、山へと近づいて行った。し
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