甦らすことは出来ないように死んでしまった。
土地も借金も同時になくなってしまったことを僕は喜んだ。せい/\とした。虹吉は、K市から帰って来た。
それからおふくろが死んだ。おふくろは、町にいる虹吉のことを、巡査が戸籍調べの振りをして、ちょい/\訊きに来るのを気に病んでいた。巡査は、虹吉のことだけを、根掘り葉掘り訊きたゞした。妻はあるか、何をしているか、そして、近々、帰っては来ないか。――近々帰っては来ないか? これだけは、いつ来ても訊くことを忘れなかった。
おふくろは、息子が泥棒でもやっているのではないか、そんな危惧をさえ抱かせられていた。
僕等は、さっぱりとした。田も、畠も、金も、係累《けいるい》もなくなってしまった。すきなところへとんで行けた。すきな事をやることが出来た。
トシエの親爺の伊三郎の所有地は、蓬《よもぎ》や、秣草《まきぐさ》や、苫茅《とまがや》が生い茂って、誰れもかえり見る者もなかった。
僕と虹吉は、親爺が眠っている傍に持って行って、おふくろの遺骸を、埋めた。秋のことである。太陽は剃刀のようにトマトの畠の上に冴えかえっていた。村の集会所の上にも、向うの、白い製
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