・ウェルフェル――「トロヤの女」(戦敗者の悲惨と戦勝者の残酷とを愁訴したものである。)
 エルンスト・トルレル――「独逸男ヒンケルマン」「変転」(独逸男ヒンケルマンは戦争で睾丸を失った男の悲痛な生活を書いたものであるが、多分に人道的である。)
 ラインハルト・ゲエリング――「海戦」(海戦の中の第五の水兵は叛乱の志を持っている。)

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第五水兵。俺たちは何のために今戦っているんだ。
第一水兵。海上を自由にするためだ。
第五水兵。じゃ、そのために母親はお前を養ったんだな、じゃ、それがお前の魂の意味なんだな。そのためにお前の身体は大きくなったんだな。
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(中略)
声々。祖国、祖国、何をまた俺達から欲しいんだ。祖国、祖国、死が俺たちを氷のように貪り食べる。俺たちが此処に斃れるのを見て呉れ、祖国。俺たちに死を与えろ、死を、死を、死を与えろ、死を。
(爆発。第一、第四、第五水兵はもぎ取られた瓦斯除けマスクをつけて死にながら横たわる)
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 表現派は、主観主義である。だから、ゲエリングは、反戦的ではありながら、本
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