いれない物の見方にジミーは悩まされつゞけた。
 が、アメリカ陸軍の投げた巧妙な罠が、とうとうジミーを戦場に引っぱり出してしまった。しかし第一歩で、おもしろいことに出会した。ドイツの潜航艇は、彼を大西洋に[#「大西洋に」は底本では「太西洋に」]たゝきこんだ。次には彼は英国の病院へ収容せられた。そこで、彼は、英国のジョージ五世に言葉をかけられた。
「具合はどうかね?」
「おかげ様で大変いゝんです。」
「アメリカの軍人ですか?」
「いゝえ、あっしや、機械工なんで。」……
 最後にジミーは、一人のボルシェビイキの猶太人からリーフレットを受取って、それを二日のうちに全部まいてしまった。そのために、逮捕せられ、あらゆるひどい拷問に付せられたが、共犯者を白状しなかった。
 以上は、「義人ジミー」のホンの荒筋である。枚数が長くなることが気になって非常に不完全にしか書けなかった。
 こゝには、インタナショナルの精神と、帝国主義戦争××が叫ばれている。
 以上に挙げた、「クラルテ」と「夜」と、「義人ジミー」の三つの作品に於ては、そこに、ブルジョアジーの一般的戦争反対文学とは異ったものがある。プロレタリアートは、まず、インタナショナルの精神を高揚する。「インタナショナルとは、国際的乃至世界的団結、全世界的同盟という意味である。」ブハーリン監輯の「インタナショナル発展史」にはそう説明してある。
 資本主義がすさまじい勢力を以て発展して、国際的威力として、プロレタリア階級に迫ってきた時、労働者階級の中から、吾々自身のインタナショナル的な組織体を作って、資本主義に対抗しようとした。それが、国際的労働者団結である。
 プロレタリアートの戦争反対文学は、帝国主義××に反対すると共に、労働者階級の国際的団結の思想を鼓吹するものである。

   二、プロレタリアートと戦争

      一

 プロレタリアートは、社会主義の勝利による階級社会の廃棄がなければ、戦争は到底なくならないということを理解する。プロレタリアートの戦争に対する態度は、ブルジョア平和主義者や、無政府主義者や、そういう思想から出発した反戦文学者とは、原則的に異っている。被支配階級が支配階級に対してやる闘争は必要で、進歩的な価値があると考える。奴隷が奴隷主に対しての闘争、領主に対する農奴の闘争、資本家に対する労働者の闘争は必要である。戦争には、残虐や、獣的行為や、窮乏苦悩が伴うものであるが、それでも、有害で反動的な悪制度を撤廃するのに役立った戦争が歴史上にはあった。それらは、人類の発展に貢献したことから考えて是認さるべきである。で、プロレタリアートは、現在の戦争に対しても、それが、吾々を解放へ導くものであるか、或は、吾々をなお圧迫するものであるか、その歴史的特殊性を分析することが必要である。
 フランス革命は、人類の歴史に新しい時代を開いた。それからパリ・コンミュンまでは、ブルジョア的進歩的な国民解放戦争があった。つまり、その戦争は、主として、封建的専制主義及び外国の支配拘束を取り除くことであった。それは進歩的戦争であった。又、イギリスに対して若し××が戦争を始めるとしたら、それは正当な、必要な戦争である。抑圧者、搾取者に対する、被圧迫階級の戦争には、吾々は同感せざるを得ない。そしてその勝利を希わざるを得ない。

      二

 現在、吾々の眼前に迫りつゝある戦争は、どういう性質のものであろうか。
 こゝに、泥棒と泥棒が、その盗品を一方が少く、他方が多いのを理由に又、奪い合いしたらどうであろう。如何に少い方が大義名分を立てゝその行為を飾ろうとも、実質が泥棒であることに変りはない。
 又、三人の泥棒が、その縄張り地域の広狭から、それを公平に分配することを問題にして、喧嘩を始めたらどうであるか。如何に正義、人道を表面に出して、自己の行為を弁護しようとも、それは、泥棒自身の利益のために、人を欺くものである。而も、現在、この縄張りの広狭争いのような喧嘩が起ろうとしているのである。これが将に起ろうとする××主義戦争である。
 近代資本主義は、自由競争から独占への傾向をたどってきた。各産業部門に於ける独占は、利潤を多くする。小資本は大資本に併合される。それから銀行と産業とが結びついて、金融資本が発生し、金融寡頭政治ができてくる。
 資本家の間に於ける独占は、始めは国内の市場をそれぞれに分割する。が、国内の市場は、資本主義の下では、外国市場と密接な関係を持っていて、そこで、それらは、一定の世界市場を形成することになる。こゝで、大資本家の団体が、ある原料産地や、市場を独占していたならば、それは非常に強いし利潤も多い。そこで「国際資本団体は夢中になって、敵手から一切の競争能力を奪わんと腐心し、鉄鉱又は油田等を
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