る二本のレールを伝って、きし/\軋りながら移動した。
 窮屈な坑道の荒い岩の肌から水滴《しずく》がしたゝり落ちている。市三は、刀で斬られるように頸すじを脅かされつゝ奥へ進んだ。彼は親爺に代って運搬夫になった。そして、細い、たゆむような腕で鉱車《トロ》を押した。
 八番坑のその奥には、土鼠《もぐら》のように、地底をなお奥深く掘進んでいる井村がいた。圧搾空気で廻転する鑿岩機《さくがんき》のブルブルッという爆音が遠くからかすかにひゞいて来る。その手前には、モンペイをはき、髪をくる/\巻きにした女達が掘りおこされた鉱石を合品《カッチャ》で、片口《ヤネハカリ》へかきこみ、両脚を踏ンばって、鉱車《トロ》へ投げこんでいた。乳のあたり、腰から太股のあたりが、カンテラの魔のような仄かな光に揺れて闇の中に浮び上っている。
 そこには、女房や、娘や、婆さんがいた。市三より、三ツ年上のタエという娘もいた。
 タエは、鉱車《トロ》が軽いように、わざと少ししか鉱石を入れなかった。
「もっと入れても大丈夫だ。」
「そんな、やせがまんは張らんもんよ。」
「それ/\動かんじゃないの。」
 そして、鉱車《トロ》を脇から突
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