、二人づれで畠へ行ってから、おきのは、
「家のような貧乏たれに、市の学校やかいへやるせに、村中大評判じゃ。始めっからやらなんだらよかったのに。」と源作に云った。
源作は何事か考えていた。
「もう県立へ通らなんだら、私立へはやるまいな。早よ呼び戻したらえいわ。」
「うむ。」
「分《ぶん》に過ぎるせに、通っとっても、やらん方がえいじゃけれど……」とおきのは独言った。
暫らくして、
「そんなら、呼び戻そうか。」と源作は云った。
「そうすりゃえいわ。」おきのはすぐ同意した。
源作は畠仕事を途中でやめて、郵便局へ電報を打ちに行った。
「チチビヨウキスグカエレ」
いきなりこう書いて出した。
帰りには、彼は、何か重荷を下したようで胸がすっとした。
息子は、びっくりして十一時の夜汽車であわてゝ帰って来た。
三日たって、県立中学に合格したという通知が来たが、入学させなかった。
息子は、今、醤油屋の小僧にやられている。
[#地から1字上げ](大正十二年三月)
底本:「筑摩現代文学大系 38 小林多喜二 黒島傳治 徳永直集」筑摩書房
1978(昭和53)年12月20日初版第1
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