小川は、ゆっくり言葉を切って、じろりと源作を見た。
 源作は、ぴく/\唇を顫わした。何か云おうとしたが、小川にこう云われると、彼が前々から考えていた、自分の金で自分の子供を学校へやるのに、他に容喙《ようかい》されることはないという理由などは全く根拠がないように思われた。
「税金を持って来たんか。」
「はあ、さようで……」
「それそうじゃ。税金を期日までに納めんような者が、お前、息子を中学校へやるとは以ての外じゃ。子供を中学やかいへやるのは国の務めも、村の務めもちゃんと、一人前にすましてからやるもんじゃ。――まあ、そりゃ、お前の勝手じゃが、兎に角今年から、お前に一戸前持たすせに、そのつもりで居れ。」
 小川は、なお、一と時、いかつい眼つきで源作を見つめ、それから怒っているようにぷいと助役の方へ向き直った。収入役や書記は、算盤《そろばん》をやめて源作の方を見ていた。源作は感覚を失ったような気がした。
 彼は、税金を渡すと、すごすご役場から出て帰った。
 昼飯の時、
「今日は頭でも痛いんかいの。」と、おきのは彼の憂鬱に硬ばっている顔色を見て訊ねた。彼は黙って何とも答えなかった。
 飯がすんで
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