くように殴り合いをさせること。
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 そのほか、いろ/\あった。
 上官が見ている前でのみ真面目そうに働いてかげでは、サボっている者が、つまりは得である。くそ真面目にかげ日向なくやる者は馬鹿の骨頂である。──そういうことも覚えた。
 靴の磨きようが悪いと、その靴を頚に引っかけさせられて、各班を廻らせられる。掃除の仕方が悪いと、長い箒を尻尾に結びつけられて、それをぞろ/\引きずって、これも各班をまわらせる。
 それから寝台の下の早馳けというのがある。寝台を並べてあるその下を、全速力で走らせるのである。勿論、立って走れる筈がない。そこで寝台の下を這いぬけて行く。しかしのろ/\這っている訳には行かない。ところが早く這うと鉄の寝台で頭を打つ。と云って、あまり這いようがおそいと、再三繰りかえさせられる。あとで、頭にさわってみると、こぶだらけだ。
 こういう兵営で二カ年間辛抱しなければならないのかと思うと、うんざりしていた。

 私は、内地で一年あまりいて、それからシベリアへやられた。
 内地で、兵卒同志で、殴りあいをしたり寝台の下の早馳けなどは、あとから思い出すとむしろ無邪
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