くように殴り合いをさせること。
[#ここで字下げ終わり]
そのほか、いろ/\あった。
上官が見ている前でのみ真面目そうに働いてかげでは、サボっている者が、つまりは得である。くそ真面目にかげ日向なくやる者は馬鹿の骨頂である。──そういうことも覚えた。
靴の磨きようが悪いと、その靴を頚に引っかけさせられて、各班を廻らせられる。掃除の仕方が悪いと、長い箒を尻尾に結びつけられて、それをぞろ/\引きずって、これも各班をまわらせる。
それから寝台の下の早馳けというのがある。寝台を並べてあるその下を、全速力で走らせるのである。勿論、立って走れる筈がない。そこで寝台の下を這いぬけて行く。しかしのろ/\這っている訳には行かない。ところが早く這うと鉄の寝台で頭を打つ。と云って、あまり這いようがおそいと、再三繰りかえさせられる。あとで、頭にさわってみると、こぶだらけだ。
こういう兵営で二カ年間辛抱しなければならないのかと思うと、うんざりしていた。
私は、内地で一年あまりいて、それからシベリアへやられた。
内地で、兵卒同志で、殴りあいをしたり寝台の下の早馳けなどは、あとから思い出すとむしろ無邪気で、ほゝえましくなる。だが、本当に誰れかの手先に使われて、寒い冬を過したシベリアのことは、いまだに憤りを覚えずにはいられない。
若し、も一度、××の生活を繰りかえせと云われたら、私は、真平御免を蒙る。
底本:「黒島傳治全集 第三巻」筑摩書房
1970(昭和45)年8月30日第1刷発行
入力:Nana ohbe
校正:林 幸雄
2009年6月17日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全3ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
黒島 伝治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング