かし、大尉が本当にえらい[#「えらい」に傍点]か? 乃木[#「乃木」に白丸傍点]大将は誰のために三万人もの兵士たちを弾丸の餌食《えじき》として殺[#「殺」に白丸傍点]してしてしまったか?
 そして、班長のサル又や襦袢の洗濯をさせられたり、銃の使い方や、機関銃や、野砲の撃ち方を習う。毎朝点呼から消燈時間まで、勤務や演習や教練で休むひまがない。物を考えるひまがない。工場や、農村に残っている同志や親爺には、工場主の賃銀の値下げがある。馘首がある。地主の小作料の引上げや、立入禁止、又も差押えがある。労働者は、働いても食うことが出来ない。働くにも働く仕事を奪われる。小作人は、折角、耕して作った稲を差押えられる。耕す土地を奪われる。そこでストライキをやる。小作争議をやる。やらずにいられない。その争議団が、官憲や反動暴力団を蹴とばして勇敢にモク/\と立ちあがると、その次には軍隊が出動する。最近、岐阜の農民の暴動に対して軍隊が出動した。先年の、川崎造船所のストライキに対して、歩兵第三十九聯隊が出動した。三十九聯隊の兵士たちは、神戸地方から入営している。自分の工場に於ける同志や、農村に於ける親爺や、兄弟が、食って行かなければならないために、また耕す土地を奪われないために、親爺や兄弟たちをとっちめるために兵士たちは、命令によって出動しなければならない。 これが国家のためであるか? いや、それは嘘だ。大きな嘘だ。資本家のためであり、地主のためである。
 兵士たちは、自分が労働者の出身であり、農民の出身でありながら、軍隊に這入ると、武器を使うことを習って、自分たちの敵である資本家や地主のために奉仕しなければならない。自分の同志や、親爺や兄弟に向って銃口をさしむけることを強いられる。
 そればかりではない。帝国主義的発展の段階に這入った資本主義は、その商品市場を求めるためと、原料を持って来るために、新しく植民地の分割を企図する。植民地の労働者をベラ棒に安い、牛か馬かを使うような調子に働かせるために、威嚇し、弾圧[#「弾圧」に白丸傍点]する。その目的に軍隊を使う。満洲に派遣されている軍隊と、支那に派遣されている軍隊は植民地満洲、蒙古をしっかりと握りしめるために番をさせられているのだ。ブルジョアの所有である満鉄の番をさせられるために派遣されているのだ。そして、満洲、支那に於ける中国人労働者及び鮮
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