したかな?」とじろ/\と部屋と兵士とを見まわした。
「うむ、そうです。」
「何か、その時に、面白い話はなかったですかな?」
 記者は、なお、兵士たちを見まわしつゞけた。
 兵士たちは、お互いに顔を見合わして黙っていた。記者は開けたばかりの慰問袋や、その中味や、子供の手紙にどんなことが書いてあるか、そういうことをたずねるのだった。兵士たちは、やはり、お互いに顔を見合わしていた。
「くそッ! おれらをダシに使って記事を書こうとしてやがんだ! 俺れらを特種にするよりゃ、さきに、内地の事情を知らすがいゝ。」
 彼等は、記者が一枚の写真をとって部屋を出て行くと、口々にほざいた。
「俺ら、キキンで親爺やおふくろがくたばってやしねえか、それが気にかゝってならねえや!」

    三 前哨

 ドタ靴の鉄ビョウが、凍てついた大地に、カチ/\と鳴った。
 深山軍曹に引率された七人の兵士が、部落から曠野へ、軍装を整えて踏み出した。それは偵察隊だった。前哨線へ出かけて行くのだ。浜田も、大西も、その中にまじっていた。彼等は、本隊から約一里前方へ出て行くのである。
 樹木は、そこ、ここにポツリ/\とたまにしか見
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