った。入口に騒がしい物音が近づいた。ゴロ寝をしていた浜田たちは頭をあげた。食糧や、慰問品の受領に鉄道沿線まで一里半の道のりを出かけていた十名ばかりが、帰ってきたのだ。
宿舎は、急に活気づいた。
「おい、手紙は?」
防寒帽子をかむり、防寒肌着を着け、手袋をはき、まるまるとした受領の連中が扉を開けて這入ってくると、待っていた者は、真先にこうたずねた。
「だめだ。」
「どうしたんだい?」
「奉天あたりで宿営して居るんだ。」
「何でじゃ?」
「裸にひきむかれて身体検査を受けて居るんだ。」
「畜生! 親爺の手紙まで、俺れらにゃ、そのまゝ読ましゃしねえんだな!」
でも、慰問袋は、一人に三個ずつ分配せられた。フンドシや、手拭いや、石鹸ばかりしか這入っていないと分っていても、やはり彼等は、新しく、その中味に興味をそゝられた。何が入れてあるだろう? その期待が彼等を喜ばした。それはクジ引のように新しい期待心をそゝるのだった。
勿論、彼等は、もう、白布の袋の外観によって、内容を判断し得るほど、慰問袋には馴れていた。彼等は、あまりにふくらんだ、あまりに嵩《かさ》ばったやつを好まなかった。そういう嵩ば
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