支鉄道を踏み越してチチハル城に入城した。※[#さんずいに「兆」、第3水準1−86−67、213−13]昂鉄道は完全に××した。そして、ソヴェート同盟の国境にむかっての陣地を拡げた。これは、もう、人の知る通りである。
ところで、それ以前、約二週間中隊は、支那部落で、獲物をねらう禿鷹のように宿営をつゞけていた。
その間、兵士達は、意識的に、戦争を忘れてケロリとしようと努めるのだった。戦争とは何等関係のない、平時には、軍紀の厳重な軍隊では許されない面白おかしい悪戯《いたずら》や、出たらめや、はめをはずした動作が、やってみたくてたまらなくなるのだった。
黄色い鈍い太陽は、遠い空からさしていた。
屋根の上に、敵兵の接近に対する見張り台があった。その屋根にあがった、一等兵の浜田も、何か悪戯がしてみたい衝動にかられていた。昼すぎだった。
「おい、うめえ野郎が、あしこの沼のところでノコ/\やって居るぞ。」
と、彼は、下で、ぶら/\して居る連中に云った。
「何だ?」
下の兵士たちは、屋根から向うを眺める浜田の眼尻がさがって、助平たらしくなっているのを見上げた。
「何だ? チャンピーか?」
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