選挙漫談
黒島傳治
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)秋蚕《あきご》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)何十日[#「何十日」はママ]
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投票を売る
投票値段は、一票につき、最低五十銭から、一円、二円、三円と、上って、まず、五円から、十円どまり位いだ。百姓が選挙場まで行くのに、場所によっては、二里も三里も歩いて行かなければならない。
ところが、彼等は遊んでいられる身分ではない。丁度、秋蚕《あきご》の時分だし、畑の仕事もある。そこで、一文にもならないのならば、彼等は棄権する。二里も三里もを往って帰れば半日はつぶしてしまうからだ。
金を貰えば、それは行く。五十銭でもいゝ。只よりはましだ。しかし、もっとよけい、二円でも三円でも、取れるだけ取っておきたい。取ってやらなければ損だ。
どうして、彼等が、そういうことを考えるようになるか。
彼等も昔の無智な彼等ではない。県会議員が、当選したあかつきには、百姓の利益を計ってやる、というような口上には、彼等はさんざんだまされて来た。うまい口上を並べて自分に投票させ、その揚句、
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