うように事をきめた。彼が大人顔をしていた。それが小村には内心、気に喰わなかった。しかし、今では、お互いに、二人だけは仲よくして行かなければならないことを感じていた。気に入らないことがあっても、それを怺《こら》えなければならないと思っていた。同年兵は二人だけであった。これからさき、一年間、お互いに助け合って生きて行かなければならなかった。
「じゃ、わざ/\見送ってくれて、有がとう。」
汽車が来ると、帰る者たちは、珍らしい土産ものをつめこんだ背嚢《はいのう》を手にさげて、われさきに列車の中へ割込んで行った。そこで彼等は自分の座席を取って、防寒帽を脱ぎ、硝子窓の中から顔を見せた。
そこには、線路から一段高くなったプラットフォームはなかった。二人は、線路の間に立って、大きな列車を見上げた。窓の中から、帰る者がそれ/″\笑って何か云っていた。だが、二人は、それに答えて笑おうとすると、何故か頬がヒン曲って泣けそうになって来た。
二人は、そういう顔を見られたくなかったので、黙ってむっつりしていた。
……汽車が動き出した。
窓からのぞいていた顔はすぐ引っ込んでしまった。
二人は、今まで押し
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