残しておかれるだろうとは、自他ともに覚悟をしていた。
だが、その男も、帰還者の一人として、はっきり記《しる》されてあった。
そして、残されるのは、よく働いて、使いいゝ吉田と小村の二人であった。
二人とも、おとなしくして、よく働いていればその報いとして、早くかえしてくれることに思って、常々から努めてきたのであった。少し風邪《かぜ》気味で、大儀な時にでも無理をして勤務をおろそかにしなかった。
――そうして、その報いとして得たものは、あと、もう一箇年間、お国のために、シベリアにいなければならないというだけであった。
二人は、だまし討ちにあったような気がして、なげやりに、あたり散らさずにはいられない位い胸がむか/\した。
三
――汽車を待っている間に、屋島が云った。
「君等は結局馬鹿なんだよ。――早く帰ろうと思えや、俺のようにやれ。誰だって、自分の下に使うのに、おとなしい羊のような人間を置いときたいのはあたりまえじゃないか――だが、一年や二年、シベリアにいたっていなくったって、長い一生から見りゃ同じこった。ま、気をつけてやれい。」
それをきいていた吉田も、小村も元
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