子供思いだったので、子供から何か要求されると、どうしてもそれをむげに振去ることが出来なかった。肩掛け、洋傘《こうもり》、手袋、足袋、――足袋も一足や二足では足りない。――下駄、ゴム草履、櫛《くし》、等、等。着物以外にもこういう種々なるものが要求された。着物も、木綿縞や、瓦斯《ガス》紡績だけでは足りない。お品は友染《ゆうぜん》の小浜を去年からほしがっている。
 二人は四苦八苦しながら、子供の要求を叶えてやった。しかし、清吉が病気に罹って、ぶら/\しだしてから、子供の要求もみな/\聞いてやることが出来なくなった。お里は、家計をやりくりして行くのに一層苦しみだした。
 暮れになって、呉服屋で誓文払《せいもんはらい》をやりだすと、子供達は、店先に美しく飾りたてられたモスリンや、サラサや、半襟などを見て来てはそれをほしがった。同年の誰れ彼れが、それぞれ好もしいものを買って貰ったのを知ると、彼女達はなおそれをほしがった。
「良《よ》っちゃん[#「っちゃん」に傍点]は、大島の上下揃えをこしらえたんじゃ。」
お品は縫物屋から帰って来て云った。
「うち[#「うち」に傍点](自分のこと)毛のシャツを買うて
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