りを見ておこったり、不平を云ったり、にや/\笑ったりして、陰鬱な面をしているだろう。かげでぶつ/\云っていず、自分からさきに出て、喋くりもし、みえを切ったり、華々しく腕を振りまわしたりやってみればいゝのだ。誰もさまたげやしない。ところが、彼自身でやる段になると、そういうことは皆目よくしない。そんなコツをさえもよう会得しない。そのくせ、人の醜悪面を見ては不公平だの、キタないのと云ってこぼして居るのだ。こんな奴は田舎へ行って百姓でもして居る方が柄に合っているのだ。──百姓をすると又、地子が高いの、取った米の値が安すぎるのとブツ/\こぼすであろう。
蛇の皮をはいだり、蛙を踏みつぶして、腹ワタを出したりするのは、一向、平気なものだ。一体百姓は、そんなことは平気でやる。、それくらいの惨酷さは、いくらでも持合わしている。小説の中でなら、百人くらいの人間は殺して居るだろう。人を殺すことや、怪我をさすことはなか/\好きな男である。
一体、プロレタリア作家は、誰でも人を殺したり、手や足をもぎ取ることが好きである。彼も、その一人である。まるで、人を殺さなければ小説が出来ないものゝように、百姓も殺せば、子供も殺す。パルチザンでも、朝鮮人でも、日本人でも、誰でも、かれでも殺してよろこんで居る。「橇」とか「パルチザン・ウォルコフ」などを見れば、これはすぐうなずける。彼は又、「二銭銅貨」では子供を殺している。彼の殺し方は、なか/\むごたらしい。「穴」の中の、朝鮮の老人などがその一つの例である。──あんなにまでして殺さなくてもよかりそうなものだ。小説の種は、人を殺すことだけにあるのではない。彼がブツ/\云うことも、彼が人の醜悪面ばかりを見ることも、書けば小説になるのだ。しかし、彼はもっと冷酷に、どんなにひどいことでも平気でそれを見つめて居れるようになりたいと云っている。それがリアリストというもんかな? 彼には、人の悪い、鷹のようなところがある。自分では理由をつけて俺等は、多くの屍をふみ越して、その向うへ進んで行かなければならない。同志の屍を踏みこして。それから敵の屍をふみこして、と。だが、彼が云うようなことはあてになったもんじゃない。
彼は、勉強家でもない。律儀な、几帳面な男でもない。克明に見えるが、それは、彼の小心さから来ている。彼は、いろ/\なものをこしらえるのが好きである。舟をこしら
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