して見せた。
「うん。」
「啓は、お父うのとこへ来い。」
座敷へ上ると与助は、弟の方を膝に抱いた。啓一は彼の膝に腰かけて、包んだ紙を拡げては、小さい舌をペロリと出してザラメをなめた。
子供は砂糖を一番喜んだ。包んで呉れたのが無くなると、再び父親にせびった。しかし、母親は、子供に堪能するだけ甘いものを与えなかった。彼女は、脇から来て、さっと夫から砂糖の包を引ったくった。
「もうこれでえいぞ。」彼女は、子供が拡げて持っている新聞紙へほんの一寸ずつ入れてやった。「あとはまたお節句に団子をこしらえてやるせに、それにつけて食うんじゃ。」
子供は、毎日、なにかをほしがった。なんにもないと、がっかりした顔つきをしたり、ぐず/\云ったりした。
「さあ/\、えいもんやるぞ。」
ある時、与助は、懐中に手を入れて子供に期待心を抱かせながら、容易に、肝心なものを出してきなかった。
「なに、お父う?」
「えいもんじゃ。」
「なに?……早ようお呉れ!」
「きれいな、きれいなもんじゃぞ。」
彼は、醤油樽に貼るレッテルを出して来た。それは、赤や青や、黒や金などいろ/\な色で彩色した石版五度刷りからなるぱっと
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